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高松家庭裁判所 昭和44年(少)5755号 決定

少年 I・Y(昭二六・二・二八生)

主文

少年を中等少年院(交通短期少年院)に送致する。

理由

(事実)

少年は、

第一  昭和四四年一〇月○○日午後二時二〇分頃、高松市○○町○丁目○番○○号地先道路において、指定最高速度が毎時四〇キロメートルのところを二三キロメートル超過した六三キロメートルの速度で、普通貨物自動車(香○さ○○○○号)を運転した

第二  昭和四五年二月○○日午後六時五五分頃、普通乗用自動車(香○な○○○○号)を運転して同市○町交差点にさしかかつた際、同所に設置されている信号機が「止まれ」の信号を表示していたのに、これを無視して進行し、もつて信号機の表示する信号に従わなかつた

ものである。

(適条)

第一の事実につき、道路交通法第六八条、第二二条第二項、第九条第二項、第一一八条第一項第三号、同法施行令第七条、昭和四一年香川県公安委員会告示第二四号

第二の事実につき、道路交通法第四条第二項、第一一九条第一項第一号、同法施行令第二条第一項

(処遇)

少年は、昭和四二年以降、無免許運転、免許証不携帯、業務上過失傷害(見とおしのきかない交差点での徐行を怠つて他車と衝突し三名に治療一か月及び三か月を要する傷害を負わせたもの。)、信号無視、速度違反(二回)などを累行し、昭和四四年四月七日当庁で保護観察に付されておるほか、当庁における試験観察の一環としての講習、三回にわたる免許停止処分(保留処分を含む)とこれらに伴なう公安委員会施行の講習をそれぞれ受けているものである。

しかるに、少年は、「指導を受けても違反をするときはするのだから無益だ。」などと主張して保護観察による指導を全く受けず、かつ、その他の前述のごとき教育的措置等にもなんら反応を示すことなく、無反省にも本件第一の非行を敢行し、これにつき当裁判所から厳重な注意を受けたうえ再度試験観察に付され講習により自覚を深める機会を与えられたのに、担当調査官からの再三にわたる講習呼出しに対し、「出頭すれば欠勤となつて給料が減る。」(少年は八〇万円もする新車を購入して乗り廻しているほどであつて一日の欠勤減給がその生活に著しく響くという事情は断じてないはずである。)などと自分の非を棚にあげた勝手なことをいつて、全然応じなかつたのみならず、そのうちさらに本件第二の非行を犯すに至つたものである。

かかる経緯に徴すると、少年は、交通法規を遵守しようとする自覚と反省に著しく欠け、少々の違反は意に介することはないという無責任な交通法規軽視の態度が固着化してしまつているというほかなく、同種非行をさらに反復する虞が大きいとみられ、また、その他本件審理の結果判明した諸事情をも考慮すれば、やがてさらに重大な事故を惹起するであろうという高度の危険性が予測されるところであつて、交通の安全・事故防止の要請に逆行する少年の反社会的態度は相当根深いものであるといわなければならない。

しかして、少年は、鑑別結果により明らかなように、ものの見方、考え方に自己中心的な偏狭性がみられ、とかく事態を安易単純に考える傾向が強いほか、我儘、利己的で行動に節度がなく、独善的で内省的な面に乏しいなど、かなり偏倚した性格を形成しており、今回の観護措置を通じても、これまでの非行に対する真の反省は遂に示すに至らず、なお、保護者の保護能力にはほとんど期待がもてない実情である。

以上のような次第であつて、その他本件調査審判にあらわれた諸般の事情をも考慮すれば、少年に対し交通法規遵守の精神と安全運転の心構えを徹底的に身につけさせるとともに性格的欠陥を改善させ、その健全な社会適応性を体得させるためには、この際、少年を矯正教育(松山少年院で実施している長期三か月の交通関係短期教育訓練)に託し、その専門的処遇を受けさせるのが相当であると思料される。

よつて、少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項、少年院法第二条により、主文のとおり決定する。

(裁判官 山脇正道)

参考一

昭和四五年四月一七日

高松家庭裁判所

裁判官 山脇正道

松山少年院長殿

勧告

I・Y

昭和二六年二月二八日生

右少年に対する当庁昭和四四年少第五、七五五号及び昭和四五年少第三、八一八号道路交通法違反保護事件について、本日少年を中等少年院に送致する旨の決定をしましたが、これは、貴院で実施している交通関係の短期教育訓練を受けさせるのが相当であると認めて行なつたものですから、その処遇方針に則り、一般保護少年と分離して矯正教育を施こすとともに、入院後原則として三か月をもつて仮退院の措置をとられるよう、少年審判規則第三八条により勧告します。

参考二 少年調査票〈省略〉

参考三 鑑別結果通知書〈省略〉

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